赤子を抱えた若い女性ホームレス フィリピン社会

僕のしている仕事の一つとして、特許製品を海外に売りに行く事がある。

その訪問先の一つがフィリピンなんだけど、そこで印象に残った出来事を伝えたい。

写真は、僕がフィリピン人の案内役と一緒に下町を歩いていた時の様子。

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まずは、話の前知識として、フィリピンの社会事情について簡単に話すと、

フィリピン人のフィリピンでの年収

フィリピンでは、日本円換算として、一般職で1万円〜2万円程度、マネージメント職でも2万円〜3万円程度、希少の高級職で3万円から6万円程度と、人件費がかなり安い。日本の20分の1から10分の2程度。

それに合わせて物価も安いのだけど、例えばコーラ一本30円〜40円くらい、大衆向けの食事一食100円前後てな感じ。

確かに日本人にとっては安いけど、フィリピン人の月収からしたらコーラ一本500円くらいの感覚になっちゃう。彼らの生活は豊かとは言い難いところがある。

また、確かに日本と比べると物価は安いけど、日本製品は日本以上に高いし、食事も日本と同じようなクオリティを求めるなら、フィリピンの方が日本の値段よりも高くなってしまう事も多々ある。

フィリピンの社会保障

フィリピンは社会保障が皆無と言っていい。

なので、マニラ中心部の駅やモールにはストリートチルドレンを始めとするホームレスがたくさんいる。

フィリピンの鉄道駅事情

マニラには、鉄道路線が3線あるけど、それぞれの経営はバラバラに行われている。日本では路線が交差するところに駅があり、乗換できるようになっているけど、フィリピンだとそうはいかない。

お互いの路線が交差しながらそれぞれ離れたところに駅が作られて、駅での乗換ができない。

これがフィリピンクオリティである。

駅では、改札から駅入口階段を通り越して長蛇の列になることも珍しくない。

マニラでは、道路の渋滞が本当に半端なく、近郊都市からの通勤に2〜3時間かかることも不思議ではない。それが鉄道利用に繋がり、駅で長蛇の列となるのだ。

長蛇の列にさらに拍車をかけるのが駅のセキュリティである。

駅改札では、警備員が肩からショットガンを吊り下げて立っており、その横のセキュリティゲートと荷物検査を通過していかなければならない。

だけれども、決してセキュリティが高い訳ではない。というのは、ブザーが鳴ってもスルーできたり、金属探知機も十分にかけることなく通り抜けができてしまうのだ。
ないより、ある方がマシくらいの感覚だろう。

ホームでも人が溢れかえっており、フィリピン初心者は鉄道利用しない事を強くお勧めする。

だからといって、他の交通機関である小型バスのジプニー、三輪車のトライシクルも安全ではない。タクシーもボッタクリや誘拐の可能性もあることから、現地日本人駐在員は基本的に契約ドライバーによるハイヤーを使うのが一般的だと教わった。

マニラで垣間見た福祉のない国、フィリピン

そんなマニラ中心部の駅での出来事。

ショッピングモールに向かうため、現地人の案内役に誘導されながらメトロに乗り、改札を出て駅の階段を降りていく途中で、一人の若い女性が階段に座り込んでいるのを見た。

初めは後ろ姿を見ていたが、うずくまっているように見えたので、通りすがりに凝視したところ、驚いた。

ホームレスの風貌の女性が、生後3ヶ月くらいの赤ちゃんを抱いていたのだ。

後ろ姿がうずくまって見えたのは、抱き抱えていたからだ。

駅階段は、乗降の乗客でごった返しており、周囲の人々がその女性の存在を感じる事はない。

それを、横切るように、幾人かのストリートチルドレンがその女性に近づき、幼児の様子を覗き込むように見にきて、すぐに去っていった。

階段を降り切ったところで、

僕は、案内役に『あれはヤラセか?』と尋ねた。

というのは、発展途上国では、肢体不自由やホームレスを装って募金を集めるビジネスがあるのを知っていたからだ。

ちょっと聞いてくる。

と、案内役。すぐ周辺の出店の人間に聞きにいったのだ。

あれは本物だ、と教えてくれた。

案内役に、幼児を抱えた女性、一人で生活なんて到底想像がつかない、フィリピンにはセーフティネット(いわゆる生活保護のようなもの)はないのか、と尋ねた。首を振り、ない、とのことだった。

思わず、募金をしたいが、どう思う?と案内役に尋ねた。

案内役は、やめておいたほうがいい、と進言してきた。

その言葉の意味もわかる。そんな人が大勢いるフィリピンでは、いちいち心を痛めていられないのだ。

だけど、やめておいたほうがいいと言いながら、案内役の目に薄っすら涙が浮かんでいるのだ。

何か常識的な範囲でできる事はないのか、と尋ねたところ、食べ物を買うのはどうか、と進言され、モールで軽食を買い、その女性のところに持っていって、手短に食べてくれと伝えてすぐさま立ち去った。一瞬であったが、その女性は喜んでくれている様子をうかがえた。

日本では憲法の保証する生活保護がある程度の水準で機能している。一部の不正受給者の問題で、制度に対して非難を受ける事があるが、それでも必要な人には与えられるべきで、制度そのものは日本人として誇るべき社会保障なのだ。

社会保障がない国では、いったい何をして生活をすればいいのか、何を選択肢とすれば良いのか。

羅生門のような、自分自身に対して大変問い掛けさせられる出来事だった。

まさに、僕がフィリピンでもっとも印象に残ったのはこの出来事だったのだ。

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